長野県の伝統工芸品である「お六櫛」。
江戸時代から受け継がれてきた木製の櫛で、静電気が起きにくかったり、適度な油分を髪に与えて、艶やかな美しい髪に導くと知られています。
実際にお六櫛を手に取ると、とても滑らかで木の温もりや優しさを感じます。
指先から木のぬくもりがやさしく伝わってきて、まるで“髪のためのごほうび”のような道具です。
でも、ふと気になったんです。
「こんなに繊細で、髪を痛めないほどスムーズな木櫛の歯を、昔の人はどうやって作っていたんだろう?」
現代の職人さんにお話を伺ってみると、答えはとても素敵なものでした。
自然界に存在するもの

お六櫛の表面のなめらかさは、鉄のヤスリではなく、トクサ(砥草)や貝殻、鹿の角など、自然の素材を使って磨かれていたのだそうです。
今のように便利な道具がない時代、職人たちは身の回りにあるものを工夫しながら探し出し、時間をかけて丁寧に仕上げていたんですね。
草や貝、角など、いろんな素材を試しながら「もっと美しく、もっとやさしく」と、ひとつの櫛に向き合っていた姿を想うと、なんだか胸があたたかくなります。
大切にしたいと思える道具
お六櫛は、決して安価なものではありません。
でも、だからこそ――「大切にしたい」と思える道具です。
最初は少し勇気がいるかもしれません。
けれど、手にとって、自分の髪にそっと通してみたとき、そのやさしさに、きっと心がほどけると思います。
丁寧に手をかけたものは、使う人の暮らしも丁寧にしてくれる。
そんなふうに感じられる道具との出会いを、ぜひ体験してみてくださいね。